しなやかさ
中国人技能実習生の陳(チン)は、2週間ほど前からスキルアップの為、今までの工程より、ふたつ前の工程での配置になった。
陳は、日本語は全くだけど飲みこみも早いから仕事面では大丈夫。
心配ない。
このふたつ前の工程には、コロンビア人の男性がいる。
彼は正社員だ。
うちの会社の社長、会長共に温情厚く、理解があるお人柄。
コロンビア人夫婦で、採用され、奥さんは、となりの部署で働いている。
彼は日本が大好きで、緑茶が好きで、日本の文化を愛し、武道をたしなんでいる。
すごく仕事もできるし、フレンドリーでムードメーカーだったりする。
誠実な面もあり、そこも見込まれたんだろう。
それから、こちらの工程では派遣社員のフィリピン人の女性ふたりと同じくフィリピン人の男性ひとりが配置についている。
そこに、25才になる中国人の女の子、陳が加わった。
このインターナショナルな小さな輪は
カタコトのカタカナの日本語で会話は成り立っている。
けれど陳は、まだ挨拶程度の語学力だ。
私は、日本人だから、陳が日本語が全く分からないことをそれほどおかしく感じたことはないけれど。
外国人からしてみれば、1年も日本に滞在していながら、未だ、日本語が全く理解できないことが、おもしろくて仕方がないらしい。
日本語で話しかけても、何も動じるどころか、スマイルひとつで首を横に振るだけのコミニュケーションをする、だけど仕事に支障はない、そんな陳が可愛らしく、ユーモラスに映るんだろう。
ある時、コロンビア人の男性社員が
「チン、シンガタコロナウイルス、ワカラナイネ、ナンデ、ワカラナイ?」
と言って肩をすくめた。
彼は、陳とすごくコミニュケーションしたくて堪らないのだ。
たまたま、ふたりの横に居合わせた時があり紙に「武漢」と書いてみせた。
陳は、理解したようで、陳の出身の四川省と距離は近いのか聞いてみたり、
「トランプ、怒ってる。」
と言ってみたが、どこまで理解してくれたかは不明。
それからコロンビア人男性社員は
「チン、ニホンゴ、ワカラナイネ、コミュニケーション、デキナイ」
と苦笑い。
「なんでかなあ、デモ、仕事ハ、問題ナイネ、ハートモ、イイネ、メンタル、ツヨイネ」
と返したが。(コロンビア人の彼と話す時、なぜか私も彼のシャベリ口調になってしまう)
「チン、サミシイ?」
彼が陳に尋ねる。
ウーン、首をかしげ、やっぱりスマイルがプラスされてる。
相変わらず日本語は、分かっていない。
異国人同志の同僚のふたりの仲をとりもつ為にも、ちょっと調べてみた。
寂しいは中国語は「孤独」と書く、読みはGūdú。
さすが漢字、中国から伝来したものだ、
読み方は違えど、同じ漢字が使われている。
「節水」も、同じだ。
それから、ついでに以下も覚えたつもりだったが……
⚫我想你
Wǒ xiǎng nǐ あなたがいなくてさみしいです
⚫通讯 コミニュケーション
Tōngxùn
陳が教育のための配置替えで、一緒に仕事が出来なくなってこれを彼女に言ってみたくて。
この言葉を学習したはずなのに次の日、忘れてた、陳の顔見て言えなかったあ(^~^;)ゞ
本屋でのバイトの件といい、最近……でもない子供の頃からだ、自分の物覚えの悪さに辟易する。
だけど、陳はどうして日本語がまだイマイチなんだろう。
来たばかりの田(テン)は、少しずつでも、習得していってるのが分かる。
陳は、ひとりでも東京タワーに行ったり、行動的だったりするし、特にシャイな性格にも思えない。
行動的というのは、好奇心からくるもの。
言葉を覚えるというのも、コミニュケーションしたいという欲求、好奇心も含まれているだろう。
でも、陳は特にそっちの方の好奇心はないんだろうか。
「エイ!ヤー!」
1日の仕事が終わり、エプロンやら手袋やらの洗濯も終わってやれやれしてた頃。
陳が体格の良いコロンビア人社員に、空手のような、はたまた少林寺拳法をまねてか、構えのポーズから片手を振り、チョップしていた。
まあ、何にしても、楽しく仕事しているのに変わりはない。
陳が未だ、日本語がイマイチなのは、ここが、言葉の壁を感じない良い職場環境ということでまとめておく。
しなやかさとは、弾力がありよくしなるということ。
どんな環境にも自分を合わせることができるという意味と捉えることができる。
また、この子たちから教えられた。
チン、アナタ、コミニュケーション、モンダイナイネ。