すいかの思い出(後編)。
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
アパートで過ごすお正月は、お雑煮を頂いた。
おばあちゃんが作るお雑煮はお野菜がたっぷり入ってて、おいしかった。
そんな頃
最初の冬から2回目の年が明けて
身体に不調を感じ、近所の産婦人科に駆け込んだんだった。
総合病院での精密検査を言われ、いろんな検査を順番にこなしていき、手術入院することになった。
しかし入院日が近くなっても、その準備が進まずにいた。
まただ。
アタマの整理がつかない。
胸の内はどんより重くて、何から手を付けていいのか分からなくなっていた。
先々の準備よりも、癌告知されたことの方がショックで、重い感情の方が先に立ち、入院中はどんなメンタルで過ごせばいいのかとか、諸々の気持ちの渦が駆け回っていた。
コンビニの帰り、急に涙がでて止まらなくなったこともある。
誰に頼ればいいのかと思い、20年ぶりに旧友宅を訪ねたりもした。
今になって、思い起こせば なんて自分って本当に依存心が強い人間だろう。
未知の試練に誰かに寄りかかりたい思いがあった。
『れんちゃん、入院の準備できた?』
って、入院数日前に、お隣りのおばあちゃんがピンポン鳴らして来てくれた。
部屋の中を見渡したんだけれど、本が山積みされてるだけで、程よく散らかった私の部屋を見ておばあちゃんは、悟ったらしく、ご自分の家で使われていないバスタオル類なんかを用意してくれた。
それから7月5日に手術が終わり、今度は抗がん剤と放射線治療のための入院に切り替わった。
猛暑が連日、叫ばれてた夏だった。
おばあちゃんは、『入院したら必ず行くからね』って言ってくれてたけれど隣のS市からはバスと電車で1時間はかかる。
申し訳なかった。
お見舞い前日、
『なにか食べたいものはありますか』とメールを頂き、『すいか』と答えた。
あの頃は、友人にもすいかをリクエストしていた。
すいかって元々、それほど好物ではなかったけれど。
時期的にも丁度良かったんだよね。
あんなに暑い日の中、お見舞いに来てくれた日、
病室でおばあちゃんとふたりで食べたすいか。
あれから、3回めの夏だ。
コロナ渦はワクチン普及はしてるものの益々、ひどくなってる。
おばあちゃんは2度目の接種をしてから、2週間経って免疫効果が出る時期になったと言っていた。
おばあちゃんちで食べる自作のすいか。
私ひとりでなんだか感慨深かったけど。
『今年初物のすいか!わぁ、うれしい』ってとなりのソファーで無邪気に喜んで食べてくれたおばあちゃん。
今度は
夏野菜の収穫が終わったら、冬のお雑煮のお野菜の栽培に力を入れる予定。
『遠い親戚よりも近くの他人』と言うけれど、本当にお世話になった。
有難うございます。